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決心 

031

通勤に時間がかかりすぎるという理由で
あの人が会社の近くにアパートを借りたのは、出会って二年目の冬だった。
二人で過ごす時間が格段に増えていったのと同時に、
私の気持ちの中には大きなわだかまりがうまれてきた。
私はあの人の何?「便利なだけの女」じゃない?

自分の気持ちをコントロールするために、
私は「上手(うわて)を行く女」に徹することにした。
媚びない、待たない、貢がない。
世話をやかない、口を挟まない、そして信じない。
そんな私にあの人は甘えている…おかしな話だけれど、
あの頃の私にとっては、それがプライドだった。

「佐川さんの部屋に泊まっちゃったんです」
社内の小さな会議室に私を呼び出したのは、祥子だった。
彼女は私の部下で、取引先であるあの人の会社へは何度か使いに出した事があった。
短大を出て2年目、まだ20歳そこそこで綺麗な肌をしている。
祥子は目にいっぱい涙を溜め、ごめんなさいと繰り返した。
凡庸な顔立ちだがなきぼくろが妙に艶かしい。
なんの事だか分からないという顔を崩さない私に、祥子は黒いポーチを突きつけた。
「透子さんのですよね」

わざわざ開けてみるまでもなく、
Touko・Kと刺繍された、そのポーチの中身はピルだった。
あの部屋に忘れてきたとは思っていなかった私は、
さすがに動揺を隠し切れずにそれをひったくり、逃げるようにその場を去った。
私の中ですべてが崩れた。

私は初めてあなたに断りもなく、合鍵を使って部屋に入り、
短い置手紙だけを残し、部屋を出た。
鍵を郵便受けに滑り込ませた時には少しだけ涙が出た。
でもそれだけだった。
仕事を辞める事にも、住み慣れた部屋を離れる事にも
なんの感傷もなかった。
あの人を忘れる事にすら、妙な開放感を感じている自分に驚いた。

新しい町で新しい自分に生まれ変われるなんて思わない。
ただ元の自分に戻れるだけ、それだけで充分。

*************
これは「エピローグ」に出てくる透子の物語です。
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コメント

ありがとうございます<m(__)m>

ずっと放置状態で、恐縮です^^;
訪問ありがとうございました。
切ないラブソングが流れてくるようなお話を書きたいと思っていたので、
有難いお言葉です。
うれしくて更新しちゃいました(笑)

いいですね。。

なんだか歌を歌いたくなりました。
とっても切ないラブソングを・・。
またうかがいます。

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