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Re: ごめんね 

011.jpg

件名「ごめんね」
メールが来たのは、真夜中の二時。
私には何がなんだか、さっぱりわからなかった。
翔君がパソコンにメールをくれるのも超久しぶりだったし、
何より、あまりに突然だったから。
だって・・・

昨日は朝から、ただ券もらった遊園地に行って、
前から観たかった泣き系の映画を観て、
いつもの定食屋でごはんを食べた。
駅前の居酒屋でちょっとお酒飲んでから、
うちでセックスして、
「明日、早朝会議だから」って、帰ったんだよね。
何年も続いてきた二人の休日には、一分の狂いもなかったはず。
あたしは、どこに何を見つければよかったの?

Re: ごめんね<(_ _)>
∑(゜∀゜ )びっくりしました^^;
(^O^)でも全然、オッケーでーす(*^^)v
思い出いっぱいありがとうヽ(゜▽゜*)乂(*゜▽゜)ノ
あたしも頑張っちゃうから(>Д<)ゝ”!

顔文字で繕った返信メールを、私はまだ送れずにいる。
携帯電話は繋がらないし、自宅の電話も変わってる。
きっと返信を待っているはずのパソコンとだけでも、
せめて繋がっていたいから。
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蛾の溜息 

010

「どうにも哀れよねえ」
外灯に何度もぶつかっていく蛾を見ながら、
カコさんが野太い声で呟いた。
僕が最後に聞いた言葉だ。

自称27歳。20年も前から変わらないらしい。
「本名は和彦っていうのよ」と、打ち明けてくれた。
年下の僕がいうのもなんだけど、カコさんは可愛い。
目尻の皺だってキュートだし、少々出っ張ったお腹も愛らしいのだ。
カコさんの大事な人は、リョウさんという初老の紳士。
どこかの会社の社長さんだという噂もあるし、
資産家のぼんぼんだという噂もある、なぞめいた人だ。
実はダンボールハウスに住んでいるのだなどという人もいた。

ある日、カコさんは店でリョウさんと激しい喧嘩をしていた。
グラスがたくさん割れて、カコさんは指を切って、リョウさんは額を切った。
カラオケの機械も壊れてしまった。
それっきりリョウさんは、お店に来なくなった。
それからも毎日、カコさんは軽口をたたきながら
お客さんをあしらっていた。
いつもと何も変わらなかったから、僕だけじゃなく誰も気づかなかったんだ。
だからカコさんがいなくなってしまったのは、
僕たちにとって、本当に突然だった。

カコさんとのお別れの会に、誰が知らせたのか、リョウさんが来た。
リョウさんは黙って花をたむけて、それからひっそりと泣いた。
言いたい事がたくさんあったはずなのに、僕は何も言えなかった。
それくらい切ない泣き声だった。

足音 

008

「好きな人ができた」
ストレートすぎる告白に、ののしることも、すがりつくことも出来なかった。
あなたの荷物が少しずつ減っていく。
おそろいのマグカップだけが、とりのこされたまま。

あなたの為に、ふたりの為に、そう考えることが重荷だったの?
わがままも言わず、いつも笑顔を作っていたのに。
あなたは「疲れた」と言った。

最後の夜。
あなたは私を軽く抱きしめ、「ごめんね」とキスをした。
あたしは、笑顔を崩せず、ゆっくりと首を横に振る。
手のひらに残された合鍵を見ながら、泣くこともできなかった。

深夜二時。
足音が聞こえた。靴の右側ばかり磨り減る、癖のある歩き方。
あたしはパジャマのままで飛び出した。
・・・・・・・・・・
「行かないで」
あなたじゃない誰かの、背中に叫んだ。
あなたじゃないから、素直に言えた。

重ねあっても・・・ 

007

「日曜日?」
男の目が泳いだ。
「そう、日曜日」
間をおかずに、たたみかける。
男の目は、今度はカレンダーを見た。
11日の日曜日の欄に、赤い花丸がつけてある。
その下に、my birthdayの文字。
「ごめん」
大きなため息のように、言葉が吐き出された。

その日は娘のピアノの発表会だという。
去年は息子のサッカーの試合だと言った。
一昨年は、会社の慰安旅行、その前は・・・。
誕生日が毎年日曜日のはずが無いことにすら、
気づいていない男が、申し訳なさそうな顔をして唇をふさいだ。
「じゃあ、仕方ないね」
聞き分けのいい女に戻って笑顔を作る。
男の手はもう女の身体をまさぐっている。
重なり合う二人。
それだけがすべてだと知っていて、女は男を受け入れる。


優しい声。 

009

Yシャツもスーツも皺が寄らないように脱ぐ。
私を乱暴に抱きよせながらも、
床に落ちたシャツを気にしてる。
「愛してるよ」
「佑子が一番だよ」
「大好きだよ」
愛しい唇からこぼれる聞きなれた優しい声。
でも私が欲しいのは、そんな言葉じゃない。

慌てて出て行った亮介の後を、今日はこっそりつけてみた。
終電の一本前、三両目の一番先頭に立ち、
ドアのガラスを鏡にして髪を整え、袖口の匂いを嗅いだりしている。
私の前では隙を見せない亮介が、隙だらけでそこにいる。

ドアの向こうに、明かりがひとつ増えた。
「ただいま」
かすかに聞こえた気がした。
大好きな優しい声。
手渡されるスーツの上着と脱ぎ捨てられるYシャツ。
きっと二度目のシャワーを浴びる。
はりさけそうな気持ちの、捨て場が見当たらない私。

宇宙 

004

クリスマスのイルミネーションが街に輝いている。
満員のファミリーレストランの一角に、僕たちはかれこれ一時間以上も
いるだろうか。
テーブルの上にはソーダ水が二つ。
すっかり氷が溶けて、ずいぶん薄まっている。
「宇宙ってね、ホントは緑色なんだって」
外の景色をぼんやりと眺めていた君が、
ソーダ水をストローでかき混ぜながら言う。
くりくりした瞳が、いたずらっぽく動いた。
「それって宇宙からみた・・・」
宇宙からみた地球の事じゃない?そう繋げたかったのだけれど、
さっと遮られる。
「宇宙からみたらさ、 ちっぽけだよね」
君の言うとおり、僕たちが出会ったり、別れたりする事など、
わざわざ宇宙からみるまでもなく、たいした事じゃない。でも・・・

ちっぽけな僕にとっては、宇宙から地球を見ることなんかより、
君が昨日、誰とどこで何をしていたかの方がよっぽど大事なんだ。
僕の言葉は今日も、気の抜けたソーダ水の中から、
浮き上がってはこられない。

溶けていかない 

003

彼女の指定席は、窓際に置かれたパキラの隣。
陽の光に溶けてしまいそうな、透き通った肌をしていた。
初めて話したのは、高校の卒業式の日。
胸に花をつけたままだった僕を、そっと手招いた彼女は、
シナモンクッキーをひとつ差し出した。
細くて長くて白い指が、僕の手のひらに少しだけ触れた。
「卒業おめでとう」

僕たちはいっぱい話をしたはずだった。
なのに、北海道で生まれて、僕よりも7歳年上で、
どこかのデパートの一角で、ネイルアートの仕事をしていて、
僕はそれ以外、彼女の何も知らなかった。
最初で最後のあの夜の事すら、今となっては思い出せない。

「ごめんね」
立ち上がっり店を出た彼女の後を、僕は追いかけられなかった。
手付かずのウィンナコーヒーに、角砂糖をひとつ入れてみる。
かき混ぜる手が細かく震える。
溶けていかない・・溶けていかない。

ニセモノの朝 

001

壁掛け時計をちらちらと見ながら、ドレッサーの前に少し前かがみで、
恭介がネクタイを直している。
紺のストライプが絶妙なバランスで調整されていく。
トーストとコーヒー、それからベーコンエッグ。
ベーコンはカリカリに、卵は半熟で。
「胡椒の加減がいいね」褒めてくれるのはそこだけみたい。

油がはじける音。お皿が触れ合う音。
狭いキッチンに幸せの香りがした。
「朝の匂いだね」
コーヒーに口をつけながら、恭介が笑った。
ついさっきまで、狂おしく愛してくれた唇が、
今は不器用に笑みを作る。
ウソツキな笑顔。
ニセモノの朝も慌しい。
終電は11時56分。


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