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溶けていかない 

003

彼女の指定席は、窓際に置かれたパキラの隣。
陽の光に溶けてしまいそうな、透き通った肌をしていた。
初めて話したのは、高校の卒業式の日。
胸に花をつけたままだった僕を、そっと手招いた彼女は、
シナモンクッキーをひとつ差し出した。
細くて長くて白い指が、僕の手のひらに少しだけ触れた。
「卒業おめでとう」

僕たちはいっぱい話をしたはずだった。
なのに、北海道で生まれて、僕よりも7歳年上で、
どこかのデパートの一角で、ネイルアートの仕事をしていて、
僕はそれ以外、彼女の何も知らなかった。
最初で最後のあの夜の事すら、今となっては思い出せない。

「ごめんね」
立ち上がっり店を出た彼女の後を、僕は追いかけられなかった。
手付かずのウィンナコーヒーに、角砂糖をひとつ入れてみる。
かき混ぜる手が細かく震える。
溶けていかない・・溶けていかない。
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